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しばらくマニに着いて、棘の付いた蔦の生い茂る道を通って来たが、茂みからいきなり均された道に出られた。

「この道は一本道です。向こうに進んでいけば、一日と少しで、港町に着く筈です。残念ながら、マニが案内できるのはここまでです」
マニは道の向こうを指差して言った。

「ううん。ありがとう、早く戻らないとまずいんでしょう?」
棘で少し傷ついた足を労わりながら、リアーネは例を言った。
「実は、ソルはこの事に気づいてたと思います。些細な事で、互いの隠し事に気づいてしまうんです」
「信じ合ってるの。いいことじゃない」
リアーネのその言葉に、マニは少し困ったように笑ったが、
「死ぬ時も一緒だと、誓い合った仲ですから」
そこだけは、少し誇らしげに言った。



「あの…牢に入れられた時取り上げられた荷物、お婆さんの家に置いて来ちゃったんだけど…」
アールは、マニが来たときから気になっていた事を恐る恐る聞いた。
オンディーネからの「荷物の管理はしっかりする事」という指導が効いていたのかもしれない。

「あぁ、お忘れになってた荷物、持って来ましたよ」
マニは相変わらず、アールから距離を取っていた。

マニは、持って来た荷物を入れたひとつの袋をリアーネに渡した。

「あと、輝。これ祭りの前に、藍ちゃんが渡してくれって言ってた物」
手渡されたのは、小さなポーチだった。
輝は中を覗いたが、何も言わずに口を閉じて、ポケットに無理やり押し込んだ。

ポーチには色々入っているようだったが、リアーネもアールも、中にあるものは見えなかった。
マニも、中の物が何なのか、知らない様子だった。

アールの荷物を態々一纏めにしてリアーネに渡すのを見て、リアーネは聞いた。
「マニ、アールが怖いの?」


「い、いいえ、そんなリアーネさまのお仲間だって事は分かってるんだけど…ただ、慣れなくて、僕達ニダの軍人は彼らを倒すために在るのに。
君は僕達とあまり変わらない。僕らは、勘違いをしていたんじゃないかって思えて、それが怖いんだ。ごめんね、ヘルの人」


アールは、リアーネと初めて出会った時のことを思い出した。

拾ってくれたのがリアーネじゃなかったら、今頃どんな思いをしていただろう。
また、オーシスに助けを求めていたのかもしれない…
オンディーネに頼って、オーシスに頼って、ウィシュの元に逃げ帰って、ヘルの腕の中で何の心配もせずに暮らす…
そんな暮らしに、戻っていたのかも。


あの、彼女の日記に書いてある事も忘れて





「ねぇ…マニも、アールって呼んでもいい?」
もじもじと発せられたマニの言葉で、アールは考えるのを止めた。
「え…あ、うん」

「じゃあ、マニの事も、マニって呼んでね。…今はここでお別れだけど、また会おうね。絶対死んだら駄目だよ。ニダに近づけば、アールにとって更に危ない場所になってくる」
マニはそう言って、勇気を出してアールに手を伸ばした。
アールも、それに答えるようにマニの手を握った。






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