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森の中でもある程度均された道を歩きながら、輝にさっきの話の続きを聞かれたので
「ヘルは何でも見てるんだよ」
ヘルはもしかしたら輝の事も知っているかもね、とこっそり付け足した。
正直、ヘルのことはあまり触れられたくなかった。
ここに来る前の事、考えずにはいられなくなるから、気が重い。
「ヘル・・・かぁ。やっぱり不思議が多いな、ここは。俺のいたとこじゃあ人間が全てだ」
輝は少しだけ上を向き、空を見ながら前の生活を思い出したらしい。
更に上を見上げ、手を翳した。
「ん〜。俺たちからすると、そっちのほうが変なんだけど・・・よく人間だけでやってこれたなぁって思う」
「そうねぇ。私たちからすれば輝の言う世界は全然想像できないもの」
アールの隣で、う〜んと考え続けるリアーネ。
「もしかしたら、人間しか生まれなかったから、俺たちの世界はあんな事になってしまったのかも。・・・なーんて・・・って言うか、
リアーネ、いつから俺が別のとこから来たって、知って?アレ、俺言ったっけ?」
間を置いて、リアーネの言葉に驚いた。
「輝は何も話してくれてないわ。」
リアーネは真顔できっぱりと言った。
「だよな。・・・何で知ってるんだ。まさかアールが?」
真顔のリアーネからは、何の事実もつかめず、唯一真実を知るアールを疑った。
「ぇ、ち、ちが」
が、両手と顔を振り、一生懸命否定された。
「アールも何も喋ってないわ。伝説があるのよ、この泉に。」
真顔を止め、にっこり微笑んでやるリアーネに、輝は訊いた。
「また伝説・・・?」
「そう、伝説。ミーミル様は全世界を風の様に移動し、一定の場所には留まらない。
ある世界から生き物を連れてきて、この世界に落としていくの。このユグドラシルの、あの泉にね。でも世界が幾つも存在する説は基本、巫女を含めた上級の聖職者と王族、一部の貴族しか知らない筈だわ。」
「・・つまり、俺はそのミーミルっていう神様にあの泉に落とされた。それは伝説にあったことだから、リアーネは俺の事が分かった・・?」
また伝説か。
輝は今までこの世界で色々見てきて、もう何があっても驚かない自信があったが、いつの間にか神様にどうかされてしまったのかと、複雑な気持ちになった。
「そう。でも、目的にはいろんな説があって、一つに絞られてないの」
「ふーん・・・何で連れてこられたのは誰にも、分からないんだな・・俺じゃなくてもよかったんじゃないのか、この世界に貢献するとかだったら俺より有能な人間は山ほどいたはずなのに」
分かったようで分からなくて、目線をゆっくり泳がせながら、独り言のように呟いた。
だがアールは、輝にしか聞こえないように小声で言った。
「でも、でも、輝に会えてよかった。俺は、ダメダメだからな」
「お前にも良いトコあるって言っただろ」
輝は少し笑ってくれたが、その笑いは乾いていたように聞こえた。
「まぁ、リアーネには厳重に隠してた訳じゃないから、自然と分かってくれて良かった良かった」
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