寝る前の疲れはどこえやらのリアーネは、サクサクと歩き、近くに綺麗な泉がある筈だからそこで水を貰いましょう。と、今度は輝の代わりに二人を先導し、森を進む。
本当にすぐ近くにあったその湖は、そこだけが綺麗に開けた空間になっており
色取り取りの草木を生やしていた。
今までの光景とは不釣合いなその泉を見ながら、輝は少し驚いた。
「!・・・ここって」
「輝と最初に会った場所よ。ね!ミーミルの泉っていう神聖な場所なの」
「名前があったのか・・ところで、一応飲めそうだけど・・飲んで良いのか?」
"神聖な場所"と言うのでちょっと気の引けた輝はリアーネに訊いた。
「もちろん飲んでいいのよ。ミーミル様は困ってる私たちに水を飲む事すら許してくれないような方では絶対に無いもの。現にこの近くの村に飲み水として汲みに来る人たちがいるのよ。不思議とお腹も快調」
「ミーミルさまって誰だよ。貴族とか?」
リアーネの信用しきっているその者が誰なのか、気になってまた訊いてみた
「ミーミル様はこの大陸の最高神よ。英知の神とされ、私たち巫女はその使いとされているの」
そう言いつつ泉へ向かうリアーネに着いて行きながら
「ふーん・・・神様・・・ねぇ。巫女ってその為の職業なのか」
どうも実感のわかない輝は生返事しか返す事ができなかった。
「もしかして、世界中の皆がみんなして神様信じてんの?」
泉にハンカチを浸すリアーネに言った。
「当たり前じゃない。今信仰される神の殆どは、神族時代に起こったラグナロクで各国を守った英雄たちだもの。彼らのおかげで、この世界は在るのよ」
常識よ?と言う風に笑って答えてくれた。
「各国って事は、じゃあリアーネの信用する神様と、アールの信用する神様は違うんだ?」
輝は靴を脱ぎ、リアーネの隣に座って泉に足を浸した。
「ヘルの存在は勿論信じているわ。ね、アール」
顔を洗っていたアールは、いきなり話を振られて少し慌てるが、そうだね。と返した
「でもヘルは神様じゃなく、ヘルヘイムの指導者だよ。皇帝の言葉はヘルの言葉。皇帝はヘルの意思を民へ伝える。国民は皆ヘルの子供。
それと、神族時代の物は殆ど残ってないんだけど、ヘルの残した物は大切に保管されてたみたいで、この世界に実在していた証拠がある」
「逆に、ミーミル様や、オーディンに関する物は全くと言って良いほど見つからないのよ。存在は言い伝えられているだけ。」
リアーネが素早く付け足した。
「ヘルかぁ。でもなんで、今でも皇帝がヘルの言葉を代弁してるんだ?歴史の人だろ?自国の発展を目指すんなら、居もしない人の言う事を聞いてちゃしょうがないじゃないか」
「何かあるらしいけど、ほとんどの人はよく知らない。ただ世間ではヘルは生きている事になっているだけ。俺にも・・・分からない」
「・・・ふーん」
膝を抱えたアールは少し俯き、水面を見た。
「俺達は、ヘルの事を信用し過ぎてるのかも知れないな」
「俺から見れば、アールもリアーネも、皆考えすぎに見えるけどね」
立ち上がったアールは靴を履く輝を待った。
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