「まだ歩くっぽいな。・・・といっても、もう限界か・・・」
輝は、フラフラとついてくる二人を見ながら言った。
リアーネに拾われる前から持っていた、いかにも軽そうな鞄以外はなにも持ってないアールも、歩きつかれ時々しゃがみこんでいる姿が見えた。
リアーネは、やはりショックを隠しきれないようでずっと俯いたままで顔を見せる事は無かった。
「二人とも、ちょっとここで待ってな!」
まだ薄暗いうちに1,2時間程度でも休息をとっておこうと
一人、まだ動ける輝は、二人をそこに残し、どこか比較的安全に休息をとる事ができる場所は無いか探した。
少し茂みを掻き分けていくと、丈の長い草で覆われた木の根元に、ギリギリ二人分は入れそうなスペースを見つけた。
すぐに二人の元へ戻り、すでにくてくてな二人を引っ張り、押し込んだ。
奥に押し込まれたアールは、自分の鞄を枕に10秒ほどで寝てしまったが、リアーネは輝の心遣いに戸惑い、ようやく口を開いた。
「あ、輝・・・?休んでも、いいの?ヘル兵が来るかも・・」
穴から半分身を出し、外にいる輝に尋ねた。
「少しだけな。俺がここで見張ってるから、安心して。今は寝ろよ」
「輝も、疲れてるんじゃないの・・・?」
見るからに元気の無いようだが、気遣ってくれるリアーネは、いつものリアーネだった。
「俺は丈夫にできてんだよっ。アレとは違うんだから座ってりゃ回復するって!」
輝は、こちらに背中を向け横たわる黒い塊を、軽く指差した。
「・・そう・・・なら、ごめんね」
申し訳なさそうに、柔らかい土の上に身を縮めて横たわった。
リアーネも、数十秒後には寝息を立て始め、そこには輝一人が取り残された。
輝は、薄く蒼みがかり始めた夜空を見上げた。
腰を下ろし、木に寄りかかるように夜の明ける直前まで二人を待ってやることにした
***
いけないいけない、少しボーっとしていたかもしれない。
もうそろそろ日が昇るようだ。
予定より少し遅れてしまった。そろそろ出発しなければ。
「リアーネ・・起きろ。朝だ」
先に寝起きのよさそうなリアーネを起こそうと、彼女の肩を少し肩を揺すった
「・・・ん・・・・うん・・・」
やはり寝起きは良いらしいリアーネは目を擦りながら、穴から出てきた。
「アール起こすの手伝ってくれるか?」
こちらに背を向け、穴の奥で眠るアールを、指差して輝は笑って言った。
「・・そんなに寝起き悪かったの?」
「家出る前も、熟睡中起こして怒られたんだ」
う〜んと言いつつリアーネは丸まっているアールの背中をぽんぽんとたたいた。
「起きて。アール起きて。人が来るわ。・・・アール!」
「・・・・・人?・・」
だんだんと強く揺すってみたり、嘘を付いて急かしたりして、何とか穴の外へ這い出させる事に成功した
「何で、もう朝・・・・」
眩しく目を瞑ったアールは、眉間に皺を寄せていった。
「輝が寝かせてくれたからよ。予定より時間が過ぎたみたい。早く出発して、村で少しゆっくりしよう?・・ほらっ顔拭いて」
子供をあやす様に、まだ完全には起ききってないアールの顔をハンカチで軽く拭いてやった。
自分の顔を拭くリアーネの手を慌てて止めさせ
「・・・い、いいよ。もう起きたから。・・それよりリアーネは、大丈夫?」
リアーネからハンカチを貰い、ハンカチで顔を隠すようにして聞いた。
「私はしっかり寝たもの。大丈夫よ」
にっこりと微笑むリアーネの顔には、寝る前ほどの疲れは見えなかった。
が、決して全快という訳ではない事は誰にでも窺えそうだ
ただそんな事を聞きたかったんじゃ無いのだが、あれだけのものを失って、平然としていられるものなのか。
彼女がどんな気持ちでいるか、想像出来ない。
「そ、そうじゃな・・・いや、それなら良かった」
無理してるんじゃないかと聞こうと思ったが、問い詰めるのも良くないと思い止めた
こっちがさり気無く気遣ってやればいい・・さり気無く・・
(さり気無く・・って如何すればいいんだよ)
顔を拭いたハンカチを叩きながら、いつもの顔に戻ったアールは思った。
「・・・俺の時はあんなに不機嫌だったのに・・・」
そんな二人の様子を見つつ輝はそう呟いて、少しクマのできた顔でアールを見た。
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