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アールもリアーネも夢中で実を捜し、摘んで、持ってくる中
輝は、カゴを横に置き周りのものより少し太めの木に寄りかかって空を眺めていた。

前に住んでいた所からは見えない青い空。
青に薄らと浮かぶ昼の星。

「アキラ、疲れちゃった?」
房を大事そうに両手に持ち近寄ってきたリアーネは心配そうに笑って話し掛けてきた。

「いんや。ボーっとし過ぎて、少し眠くなっただけだ。」
平和だ、と表情で伝えると、

リアーネは、そうなの?良かったわ、と心配の消えた笑顔で作業に戻どろうとした。

その時

獣の咆哮のような、轟音が、森中の木々を揺らした。
いや、ようなではなく、まさしく獣の咆哮だった。

茜色の飛竜。

低く飛ぶ飛竜は、三人の真上を腹を見せつつ飛んでいく。
ざわざわと風が髪や衣服を舞い上げる、三人はその腹を見上げたまま絶句した。
大きく凛々しいその巨体が、己の大きな羽を羽ばたかせアール達の真上を通っていった。

無防備に座っていた輝も思わず膝を着き身構え
「・・・なんだ、あれ」
飛竜の飛んでいったほうの空を見つめている。

「・・・竜?何で竜がこんなところに?・・・このミッドにはいないはずなのに。」
リアーネもはじめて見た竜に動揺していた。

「あれ・・ムスペル族だ。・・何でこんなところに・・」
少し離れているところから見ていたアールは、竜が過ぎ去る前にリアーネ達の近くに駆け寄ってきた。

轟音も無くなり、風も止んだ。
一瞬の出来事だった。

***

竜が去ってから、三人はすぐリアーネ宅に戻った。
とりあえず三人で取った実を房から取り外す作業をしている。

「さっきの竜。何だったのかしら・・・」
まだドキドキしてる様なリアーネは、さり気無く口にしようとした。

「かっこよかったな!ホントに、はじめて見たぜ!あんなのが居るんだな!」
鼻息荒く言う輝の前には、意外と冷静なアールが不器用な手付きで房をバラしていた。

「あれは、たぶんムスペルの竜族だよ。」
もくもくと作業を続けながら言った。


「「むすぺる?」」
向かいのテーブルから、輝とリアーネは揃って聞いた。

「ヘルの、南に住んでた民族の一つなんだけど、俺たちスヴァルト人が大陸を占拠した時から数は減り続けてて、今は殆ど見かけない。
もし捕まえられると高額で取引される。竜は特別な生き物だからね。」
昨日とは違い、素直に説明してやった。

「へぇー、詳しいのね」

「あんまりミッド人には関係ないのかもね。今のヘルは、大陸自体を囲むようにして防御壁が張られてるから。こっちに来る事は基本出来ないはずだし。」

「あんなにでっかい体してんだったら、見つかり易そうなのにな。」
実を取り終わった房をカゴに捨て、輝は言った。

「竜族は元の姿は竜だけど。伝説だと、温和な一族だったムスペル竜は神族から人の姿を貰ったとか。なんとか。」

ふんふんと、分かったように言う輝だが、
「なんで?」
笑って首を傾げた。

「知らない。伝説は、伝説だから。俺も小さいころ師匠から子供向けの本を読んでもらっただけだから。」
言い終えて、アールはいつも首に掛かけている赤い宝石の付いたペンダントを手にとって眺めようとした。



「そっかぁ〜竜がいるのかぁ〜ここには。おとぎ話の存在だよ。竜は。ってもうこんな時間か。夕飯作ってくるや」

「私もはじめて見たわ。まさかあんなに大きいと思わなかった。」

二人は嬉しそうに言って、輝はキッチンへ向かっていった。
ただアールは一人激しく動揺していた。

「・・・・・・な、・・・無い。石が。無い・・・」
プルプルと震えるアールに気づいたリアーネは、如何したのかと気付いた。

「おお、俺がく、首にかけてた、やつ・・・」
リアーネはハッとした。
アールが来たときから大事そうに首から掛けていた赤いペンダントが、出掛ける時にも付けていたアールのペンダントが、今は無くなっている。

「あ、・・・落としたの?」

「そ、そんな・・・」

動揺と、恐怖と、しまったという心から、泣きそうなアールを見てリアーネは、

「あ、明日になったら森に探しに行きましょう。ネ?」
パンッと両手を打ち、大丈夫よ!問い行きかけるように笑って見せた。

しかし、アールは、ぐるぐる回る頭の中を必死に落ち着けようとするが、

「だ、だめだ、あれが無いと、あれが無いと、あれを無くしたら・・探してくる!!!」
言い終わる前に椅子から乱暴に立ち上がると、一直線にキッチンの裏口に手を掛けた。

「どわっ!?何だお前!」
輝はキッチンに飛び込んできたアールに驚き卵を落としそうになった。
そんな事には気を止めても居られず、アールは裏口から外に飛び出した。

残された二人は、いきなりの行動に驚き出遅れた。

外はもう真っ暗だった。

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