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木々が空を覆って、真っ暗で殆ど周りは見えなかった。
それでも直感で走り回って、帰れなくなった。
「なんとなくで走ってきたけど・・どうしよう。」
更に歩くと、道は開けて、月の光が差し込んでいた。
道は見えるようになったが、ここがどこなのかが全く分からない。
少し、心細くなって、その場に膝を抱えて座り込んだ。
「オンディーネ・・」
ポツリと、呼んで見ても、どこからも反応は無い。
また、この感じ。
***
「いた!アール!!」
リアーネたちはしゃがみ込むアールを見つけ、駆けつけてくれた。
「急に飛び出すからビビったじゃねぇーか!」
「探しに行くのは明日でも良かったんじゃない?」
そういうリアーネは、ハイっといって、アールの探し物見せた。
「今日行った所に落ちてたの。」
「!!・・見つけてくれたのか。・・ありがとう。本当に。」
首に掛ける紐の切れたそれを、アールはしっかりと両手に包み込んだ。
「良かった。・・落としたりてごめん・・オンディーネ。」
石に向かって謝罪をし、今度はしっかりと石に向けて、もう一度呼んだ。
すると、血色だったその石は、鮮やかな青に変わり、辺りを包む優しい光を発した。
「これ、アールを拾ったときと同じ光だ・・・」
周囲を仄かに照らす、青い光は、初めて出会った時の光だった。
石が発光を止め、数秒すると、アールの背中から半透明の女がふわりと纏った布をひらひらさせて、抜け出てきた。
地面に着くか着かないかの所で爪先立つ女は、半透明な体から段々と実体化していく
女の顔は、少し人間離れしていて、全身は、肌までも蒼で統一されていた。
「やっときづいたのね。最っ低!忘れるなんて。」
蒼い女は腰に手を当てアールに怒鳴った。
「・・ごめんなさい」
申し訳無さそうに少し下を向いてもう一度謝罪した。
「オーシスも頼んでたから仕方なく付いて来てやったけど、まさか落として行くなんて!次からは、出て来ないようにしようかしら。」
アールから出てきた女性は、機嫌を直す様子は無かった。
「そ、そんな・・俺にはオンディーネしか居ないのに・・」
アールはショックを受け、また泣きそうになった。
そんなやり取りをかやの外で見ていた二人に気付いたアールは二人に言った。
「これはね、オンディーネって言う種類の精霊で、ヘルから、俺に着いて来てくれてる。おかげで俺は今生きてるよ。」
アールはオンディーネというらしい女を紹介し、
これ呼ばわりしないでくれる?と言うオンディーネにもう一度謝った。
「どういうことだ?」
いまいち理解できていない輝にオンディーネ自身が付け足した。
「私はアールと一定期間で契約したのよ。元の主人はオーシスって言う人間よ。そのオーシスからの命令で、一定期間アールのお守りをしているの。」
「ってことは、この女の人が昨日アールの言ってた妖精?」
そういって輝は、恐る恐るオンディーネに一歩近づいた。
「私は精霊。妖精はこの世に実体化する精よ。私たちは、召喚士の力でこの世に呼び出されているだけ。
普段はアンタ達と接する事は無いわ。私たちから見えてもアンタ達からは見えないものって沢山あるのよ。私たち精霊もその類に分類されるわ。」
ふわふわと、空中を移動しながら、オンディーネは説明した。
「つまり、アールは召喚士なの?」
リアーネが、少し離れて聞いた。
「そうよ、まだまだ見習いのチビだけどねぇー。そのチビでも私達を呼べるように、この石をオーシスが持たせてくれたって訳。最初のほうは、我慢していつもどおり仕事してたけど、やっぱ耐えらん無いわ。」
オンディーネは、アールの探していた石を指差していった。
指を指された石を持ちアールは先ほどからしょんぼりしていた。
そんなアールの姿を見て
「・・・まぁしょうがないわ。ちゃんと護衛するのがオーシスからの命令だし?命令には逆らえないわ。もう少しアールの言う事聞いてあげる。石の中閉じ込められてちゃオーシスのとこ帰れないし」
オンディーネは蒼い頬に少し赤みの差すのを隠すように本人の顔を見ず、両手の甲を腰に付けて強く言った。
それを聞いて、これ以上無いのではと言うほどしょんぼりしていたアールは、
「よかったぁ・・・」
眼を輝かせてオンディーネに抱き着こうとした
が、
「触るなぁ!」
見事に、避けられて草むらに転倒した。
「これからは、些細な事でうじうじしないの!荷物の管理はしっかりする!分かった?」
オンディーネは、腕組みし、アールを見下ろして言った。
それを聞いて少し背の高い草の中に座り込むアールは、小さく、はぃ。と返事した。
返事を聞いて、気を落ち着かせたオンディーネは、今度は先ほどより、オンディーネから少し遠ざかったところにいるリアーネに向き合い言った。
「ところでさっきから気になってたんだけど、お嬢ちゃん。ミッド人?それともニダ人?」
「え、お譲ちゃんって、わ、私?ですか?・・ミッド人ですけど・・」
いきなり話しかけられて、本当に自分に発せられた質問なのか、一旦辺りを確認してから、正直に答えた。
「あら、そう?珍しいわね」
予想が外れたらしいオンディーネは少し悔しそうに、リアーネとの距離を一気に詰め、顔を覗き込んだ。
「・・め、珍しい?な、何が、ですか?」
びっくりして声が引き攣った事に失礼を感じつつ、今度は自分から聞いた。
「お譲ちゃん。術者かなんかでしょう?元祖人間のミッド人じゃ、私達との干渉は、かなり少ないはずだから、ちょっと気になって。」
オンディーネは大きなアーモンド形の目を閉じリアーネに向けて笑って見せた。
「!リアーネ術者だったのか」
輝の隣で、座ったままのアールが驚いているのにも気付かず
「え、あ、一応、ガンドだけ・・・一応、巫女だし・・」
少し間抜けかもしれないと、自分でも思う返事をした。
「・・ガンド?・・あぁ、そうなの。噂になってたミッドの巫女ってお譲ちゃんのことだったのね。どうりで。ふ〜ん。良いもの見たわ。」
リアーネに何か思い当たる事があるのか、物珍しそうに全身を舐める様に見て、満足げにいた。
「う、噂?」
どこら辺で噂になってるのか
「私の仲間の間でよ」
リアーネの事を気に入った様子のオンディーネは、リアーネの傍からモノ惜しそうにアールの元へ帰っていった。
「じゃあ、そろそろ帰らなきゃだわ。」
残念だ、と人間離れしたオンディーネの顔に書いてある。
「え?なんか用事でもあるんすか?(と言うかどこへ帰るんだ?)」
ずっと何も言わずアールの隣で、膝を抱え座ってた輝は、ふと過ぎった疑問を口にした。
「私は、そこの力の無いがきんちょの所為で、命令期間中はずっとあの石に居るの。霊界へ返れないから用事なんて無いわ。」
またしょんぼりし始めるアールなど気にせずオンディーネは言った。
「石に帰るのは、アールが体力不足だからよ。召喚は術者の体力と精神力を奪っていく。私がここに具現化するだけで。アールは何もしなくても疲れていく。だからこの間も、私を使いすぎて倒れてお譲ちゃんに拾われた。」
「それであんなにクタクタでも外傷はあまり無かったのか。」
輝は納得し、同時になんだか緊張が解けてきた。
「そう。石の中も霊界ではないけど、この石は特別なの。
本来魔力とか入れて、術者じゃない人が術を使える様にする物なんだけど、そこはオーシスがちょちょいと応用して私がゆったりと入れるスペースを作ってくれたの。
オーシスの意思から私たちの存在が消えない限り、石の中の空間は在り続ける。オーシスが、石の空間を解けば、私はお仕事終了って事♪」
最後の方はとても楽しそうに言った。
「ふーん。今度はオーシスって人が気になるけど。まぁいいや。今日はもう帰るんだろ?」
輝は立ち上がり、まだ少し怖いのか、アールから三,四歩離れた。
「あぁ、忘れてたわ。じゃあねぇ〜また呼んでねぇ〜石の中はちょっと寂しいのよぉ〜」
オンディーネは笑いながら、徐々に透明になり、やがてまたアールの中に溶け込んでいった。
***
「なぁ、気になってたんだけど聞いていいか?」
アールも無事に大事そうに石を握り、家に帰ってきた。
食べる専門の二人は食卓に座り、さっきの出来事、今朝ので出来事をどうのこうのと話しながら、料理を待った。
そんな中、忘れられていた作り掛けの料理を作り終えてから姿を現した輝が、聞くに聞けなかった疑問を言った。
「リアーネもアールと同じような事をできる、みたいな事言ってたけどさ・・」
「んー・・・まぁ、同じ部類に入るわね。」
輝と入れ替わりに台所に入ろうとしたリアーネが答えた。
「皆普通にしてるから聞きにくかったんだけど、ガンドって、何?」
「ガンドは俺ら、召喚士とはまた少し違う能力だよ。使い勝手は多分ガンドの方が良いのかも。」
「オンディーネさんとかは呼べないわけ?」
「呼べないわ。」
台所から出来立ての料理を少し運んできたリアーネは何事も無いように言った。
「じゃあ何が出来るんだ?」
まだ続く質問の回答はリアーネに任せ、アールは料理を運ぼうと台所に入っていった。
「簡単に言うと、自分より精神の弱い相手の中に入れるの。こう、人差し指を対象に向けて、ネ。」
リアーネは大皿をテーブルの真ん中に置き、席に着いた。
「ぃ!・・入れるってどういう・・?」
少しホラーなイメージしか湧かない輝は、苦い顔をした。
「え、い、いや。私の体は入らないわよ?なんというか、意識だけすぅーっと。それで対象に話しかけられるし、強く入り込めば脳まで届いて、操る事も出来ない事も無いかな。相手が強く抵抗しなければだけど。
そんな力よガンドっていうのは。アールのとは違うわね。」
そんな輝に訂正を加え、更に少しだけ詳しい説明を施した。
「そ、そうか。良かった。オレはてっきりリアーネが血まみれになりながら・・「そんな訳無いでしょ!」
本気でそう思っていたらしい輝にリアーネは呆れ半分怒りも込めて、もう一度訂正した。
「なにやってるの?リアーネが怒鳴るなんて・・」
そういって台所から最後の料理を運んできたアールは、今日はリアーネの向かい、輝の隣に座った。
***
「いや〜、今日は色々あったな!竜にあったり、オンディーネさんにあったり!」
輝は布団に潜って、アールのペンダントを首に掛けるための紐を新しく作ってやっている
アールも布団に潜って輝の作業風景を見ていた
「うん、良かった。落とした事に気付いて。」
「竜はかっこよかったなぁ〜。ムスペル竜だっけ?また会えないかなぁ〜」
輝は指を器用に動かしつつ、幸せそうに言った。
「うん・・・もう眠い。お休み。」
アールはそう言って、まだ熱く語る輝を無視し、一人夢の中に入ろうとするが、
(今日見たあの竜・・たぶんウィシュが連れていたマトリって名前の・・
まさかウィシュにばれたのかな・・・・・俺の事探してるのかな。リアーネ達に被害が無ければ良いけど・・)
眉間に皺を寄せながら、今日も眠りに着いた。
三人とも深く眠りに着いた頃。
窓の外が赤く光り、人々の声が響いた。
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