この森に迷い込んで、何日が経っただろう
本当にここに来て良かったんだろうか

漸く逃げ込んだ大きな木の陰で、アールはふと思った。

今更な不安が、更に疲労を運んでくる

あいつ、今頃如何してるだろう‥

ガサッ

草を掻き分ける物音がして、段々と近づいてくる人の気配。
「―おいっ、いたぞ!」
(見つかった・・!?)

「‥ッ‥オンディーネ…!」
苦し紛れに手に握り締めていた赤い宝石に向かって呼び掛けた。

すると、呼びかけに応えた様にアールの体から、青を主体とした露出の高い服を纏った女性が現れた。
「頼む、20分だけ、時間を稼げ・・」
アールからの命令に頷くと、何処からともなく、不思議な形状をした、辛うじて剣と呼べる様な代物を取り出し、今も迫りくる敵から主人を庇う様に向き直り戦闘体勢にはいった。

オンディーネにこの場を任せ、アールは疲れ切った足に鞭を打ち、今まで隠れていた少し太い木の裏から道なき道を走り始めた

服に纏わり着く葉っぱや木の枝さえ気にならないほど、必死に森の中を進んでいく。

「こんなところで・・・捕まったら・・」

どうなってしまうのだろう・・

自ら手を下した訳ではないが、すでに相手にも数名死傷者を出してしまった。にも拘らず逃亡中のこの身は敵国の者である・・
この土地の者から見たら完全に敵だ。

色々考えた末、決して捕まるまいと、更に足を進めた。

***

いつの間にか人の気配も感じられず、ふらふらとたどり着いたのは今まで通ってきた木の密集した草むらとは不釣合いに広い空間。

敵の気配が消えた事に安心しきった為か、その広い空間の中を少し入ったところで、長い草の生える地面へ倒れこんだまま動けなくなってしまった。

それを追うように軽々と飛び跳ねながら森を抜けてきたオンディーネが元に戻ろうとした時、

「おい、あれなんだと思う・・?」
「どうしたの?・・・あ・・何か光ってる・・人?」
少し遠いところから闇に紛れて聞こえてくる若い男と女の声

闇夜のなかで薄く光るオンディーネに気付いた様に駆け寄って来る
これは主人を起こさねばと、気を失ったアールの体に戻り、自分の所為で使わせていた精神力や体力が少しでも戻ることをオンディーネは願った。

オンディーネの戻った直前であるためか、気を失ったままの状態にも拘らずその手に握られていた赤い宝石は本来の色を忘れた様に青く輝いていた。

「あ・・・消えちまった・・?」
「ねぇ、人!・・人が倒れてる!!」

アールの細長い指の間から漏れる光で、長い草の中でぼんやりと映し出されていた人影を、駆け寄った女が見つけ、青い光を未だ思い出していた男に伝えた。

「・・どうする・・?」
「どうするって、・・連れて帰るしかないでしょ! ホラ!アキラ、担いで!」

当然の事だという風に様に女が言うと

「・・はいはい。」

少しからかう様に男が応じ、気を失ってるアールの背中を起こすと、右腕で肩を抱き、左手で両膝を抱えて持ち上げた。

「あれ・・・以外にでかくね?・・」
「アキラと同じぐらいでしょ?とりあえず早く運んじゃわないと、人に見つかったら怒られちゃうわよ。『余所者を入れちゃだめです!』ってね。」

そうだな、とアキラと呼ばれた男は苦笑を漏らし、もう一度自分の腕の中でぐったりと頭を垂れているアールを持ち直すと、慣れた足取りで草むらを駆けた。

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